年4戦で争われるイタリアGT選手権に参戦する日本と英国の若きハーフレーシングドライバー、ダギー・ボルジャのヨーロッパ生活について連載企画をお届けする。
今回は伝統のモンツァで行われた第二戦終了後に執筆いただいたので、レースの裏側を中心に紹介する。
【自己紹介】
こんにちは!ダギーです!長野県軽井沢町出身、日本とイギリスのハーフです。名前を見て驚かれた方もいるかもしれませんが、僕は12歳まで日本で育ち、カートレースなどに出場していました。
その後はヨーロッパに活動拠点を移し、英国F4やGTワールドチャレンジ・アジア、ランボルギーニ・スーパー・トロフェオ・ヨーロッパ、ラディカルレースなど様々なカテゴリーに参戦してきました。
2024年はイタリアGT耐久選手権でクラスチャンピオンを獲得することができました!
レース文化がとても面白いイタリアでの経験を通して、日本ではまだあまり知られていないヨーロッパでの生活や、イタリアGT選手権の魅力を皆様にたくさんお届けできればなと思っています。
これから応援よろしくお願いします!

これまでのキャリア
・レースとの出会い
小さいころからグランツーリスモやセガラリーなどのレースゲームが好きで、その流れて3歳の時には既にゴーカートに出会っていました。6歳から本格的にレースに取り組み、それ以降はフルタイムで活動しながら毎年より上のカテゴリーを目指し、日々努力に励んでいます。
・単身で世界へ。ヨーロッパでの思い出
12歳で日本一を目指すよりも世界に挑戦したいと思い、親元を離れて単身留学しました。以降の3年間は主に全英カート選手権やIAMEワールドファイナルなどに参戦し、年によってはほぼ毎週末カートに乗っていました。ヨーロッパでの経験を通じて、レースだけでなく現地のメンタリティや文化にも触れることができ、楽しみながらドライバーとして大きく成長できたと思います。
今振り返れば、HAAS MONEYGRAM F1 TEAMからF1に参戦中のオリバー・ベアマン選手をはじめとした、世界中でレースを戦う同期と出会えた特別な時期でした。
2018年から19年のIAMEワールドファイナルではカテゴリー内の日本人ドライバーの中でトップの成績を収めることができ、イギリスで過ごした数年間で得た経験と成長を実感する機会となりました。
2018年にはマクラーレンのDNAドライバープログラムにも選出され、様々な経験を積むことができました。(マクラーレンDNAプログラムは2020年にコロナ禍とパジェットキャップの影響で廃止)

・カートからフォーミュラへ。英国F4への参戦。
2020年に自身最後のカートレースとなったBritish Kart Masters Grand Prixで5位に入り、その後は翌年の英国F4参戦に向けテスト走行を重ねました。
翌2021年は所属チームであるCarlin Motorsportにとって厳しいシーズンとなってしまい、なかなかいいペースを掴むことができませんでした。しかしそんな時期でも、与えられたマシンの力を最大限引き出すトレーニングになり、非常に実りのある一年になりました。
その中でもクロフトサーキットで挙げた1勝は特にうれしく、今でも鮮明に覚えています。
2022年はレースへの参戦頻度を減らし、勉学にも力を入れました。それでもラディカルのSR1やSR3シリーズにスポットで参戦し、練習なしで2勝を挙げることができました。F4で培った力を実感できた、思い出に残る年でした。
・ヨーロッパ転戦へ。ランボルギーニとの出会い。
知人からの紹介もあり、2023年からはランボルギーニ・スーパー・トロフェオ・EUの Pro-Amカテゴリーに参戦しました。シーズン序盤から良いパフォーマンスを発揮できていましたが、チームメイトの資金不足により僕が単独でProカテゴリーに参戦したり、他のチームメイトと Pro-Amカテゴリーにスポット参戦する形となり、ランキングを争うことはできませんでした。それでもランボルギーニのワークスチームとつながりを持つきっかけになった、とても大切な1年です。
・イタリアGT耐久選手権参戦。そして母国凱旋
2024年はスーパートロフェオの最初の2戦に参戦したのち、イタリアンGT耐久シリーズにHC RacingからAMクラス(プロ1人 + アマ2人のクラス)で参戦しました。全戦で表彰台に立ちモンツァではシリーズチャンピオンを獲得することができました。
さらにカプコン様のサポートを得て、ランボルギーニのワークスチームであるVSRからGTワールドチャレンジ・アジアの鈴鹿ラウンドに招待され、地元である日本でGT3マシンに乗ることができました。

今シーズンのイタリアGT選手権
・2年目のイタリアGT選手権
現在はDL Racingに所属し、272号車をドライブしています。DL RacingはイタリアGT選手権の他にスーパートロフェオ・シリーズにも参戦している有力チームです。所属することになったきっかけは、昨年まで所属していたHC RacingとDL Racingの関係が非常に良好だったこともあり、HC Racingでのシート確保が困難な状況に陥った際に紹介していただきました。
・開幕戦ミサノの振り返り
2025年シーズンの開幕戦となったミサノは、「DL Racingでの初陣」「初めて組むチームメイト」「初めてのミサノサーキット」という自分にとっていくつもの初めてが重なった挑戦になりました。そして大学のテスト期間真っ只中、さらにマシンに乗るのも約半年ぶりという厳しい状況でしたが、それでもレースの舞台に戻ってこられるという高揚感が、全ての困難を乗り越える原動力になっていました。
しかし実際に走行が始まるとFP1からブレーキに違和感を覚え、セッションが進んでも原因を特定できず苦戦する展開が続きました。予選は3人のドライバーのラップタイムの合計で決まる形式で、自分はQ1を担当。ここでもブレーキに安定感がなく、不安は解消されませんでした。そしてQ3でチームメイトに悲劇が発生。ブレーキングゾーンで原因不明のトラブルにより突如マシンが方向転換し、約200km/hでバリアに激突。マシンに大きな損傷を受け、翌日の決勝には出場できなくなってしまいました。

・イタリアでのレース週末の過ごし方
レース週末が始まる木曜日は、ほとんどの場合イギリスからイタリアのサーキットへ向かうところからスタートします。朝4時起きなど、なかなかタフなスケジュールで空港へ。現地空港に到着しても観光する余裕はほとんどなく、そのままサーキットへ直行します。
木曜日は参戦に必要な書類へのサイン、トラックウォーク(コース下見)、シートの確認、そして週末全体の流れをエンジニアと一緒に確認するなど、準備に時間を使います。
週末を通して各セッション後には必ずデータやオンボード映像を確認し、ドライビングやマシンに関する改善点をエンジニアとブリーフィングを行います。話し合いに没頭しているうちに、気がつけば夜22時を回っていることも。その間、メカニックの皆さんは黙々とマシンのチェックやメンテナンスをしてくださっていて、本当に感謝しかありません。
食事は基本的にサーキット内のホスピタリティで済ませます。チームメイトや関係者の方とコミュニケーションを取るいい機会にもなっています。最近はイタリア文化にも少しずつ慣れ親しんできて、例えば夜に「カプチーノ飲むね〜」(イタリアでは禁忌)なんて話をネタにして、チームメイトをからかったりして楽しんでいます(笑)。
セッション前、多くのドライバーはウォームアップをして気持ちを高めるのですが、僕の場合はエアコンの効いた部屋にこもって、アイスクリームを食べながらレースのライブ中継を観て体を冷やしています。準備運動は直前に軽くストレッチをする程度で、あとは集中あるのみです。グリッドウォークなどで大勢の観客を見かけると、思わずワクワクしてしまうこともあります。そんな瞬間も含めて、やっぱり決勝レース前は特別です。
予選や決勝の後、クルマがパルクフェルメ(車両保管エリア)にある間はデータも映像も見られないので、チームメイトや仲間と一緒に他のサポートレースを見に行って、リラックスする時間にしています。
そして決勝が終わってガレージに戻る頃には、パドック全体の撤収作業が既に始まっていて、「ああ、もう終わりか」と少し寂しさを感じる瞬間でもあります。チームの片付けを少し手伝った後は、帰りの車の中や空港で家族や関係者に電話して週末の出来事を振り返るのが、なんとなく毎回のルーティンになっています。

・モンツァとは?
モンツァはご存知の通り、コーナー間のストレートが非常に長いのが特徴的なサーキットです。そのため、すべてのコーナーでいかに良いコーナースピードと立ち上がりを確保するかが重要になります。
ここ1年ほどで、ほぼすべての縁石が使いやすい構造に改良され、コーナーの曲がり方も若干変わりました。これは最近のサーキットの中でもよく話題に上るポイントです。また、いくつかのコーナーではブレーキングゾーンに小さな段差があり、GTマシンのバランスを崩しやすい場所もあります。重くブレーキを踏むのが難しく、決して難易度の低いサーキットではありません。
第2戦となった今回のレースでは、気温が35℃近くまで上がり、全ストレートで前のマシンの後ろを走らないようにしなければ、すぐにエンジンの水温やオイル温度がオーバーヒートする問題もありました。
ただ、直近のイモラ戦と比べるとオーバーテイクは比較的しやすく、レースとしては非常に楽しめるサーキットでした。
また、モンツァのGTレースではチーム間の熱い戦いだけでなく、メーカー同士がBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)獲得のために繰り広げる「政治的な争い」も特徴的です(笑)。

・モンツァでの第二戦 〜スタートできなかったミサノから一転、表彰台への復帰〜
今シーズンのGTカップはBoP(性能調整)がかなり難しく、同じGTカップ内でも4つのクラスに細かく分かれています。その影響もあって、前シーズンとは違い今シーズンのAmクラスは3台しか参戦しておらず、「完走すれば表彰台」という状態なんです(笑)。
なので単純に表彰台に乗った=すごい、というよりは、むしろ「今年はチームメイトであるアマチュアドライバーたちの成長をサポートしつつ、GTカップ全体(Pro-Amクラスも含めて)の中でどれだけ良いレースができたか」を基準に、シーズンを評価できればいいかなと自分では思っています。
モンツァ戦では、スタート直後に不運にもチームメイトが接触してしまい、レース開始からわずか15分で修復のためにピットイン。そのうえドライブスルーペナルティも科されてしまい、他のマシンよりも追加で2回ピットを通過しなければならない苦しい展開になってしまいました。
その影響でGTカップのリーダー勢からはスタート直後から早くも2周遅れに。しかしチームメイトと力を合わせて諦めずに走り続け、運よくセーフティカーのタイミングにも助けられて、僕の最初のスティント(6スティント中3番目)が終わる頃には、なんとか1周差まで取り戻すことができました。
とはいえ、残りの1時間半ではその差を埋めきることはできず、最終的には僕がチェッカーを受けてレースを終えました。
スタート直後の接触によって、チーム内にはやはり少し緊張感が走りましたが、その後の戦略変更やピットでの修復作業など、対応の早さには本当に感心しました。状況が厳しい中でもすぐに切り替えて、前を向いて動くチームの姿勢がとても頼もしかったです。
272号車のリードドライバーとして、序盤の接触トラブルがあってもチームメイトに「まだ勝てるチャンスは十分にある」と声をかけてモチベーションを高めました。実際、昨年の最終戦では2周遅れの状況から逆転優勝を果たした経験があったので、自信を持ってそう伝えることができました。
チームメイト(273号車)が優勝でき、チーム全体の雰囲気も少し明るくなっていました。僕の最終スティントでは、その273号車のために少しだけサポートもできたので、表彰台の前に感謝の言葉をかけてもらえました:)
レース中には他のマシンにも小さなトラブルがいくつか起きていたため、「もしスタートのトラブルさえなければ、優勝できていたかもしれない」と思うと、なおさら悔しさが残る結果でした。
でもモータースポーツでは「もし〜だったら」と思う瞬間はよくあることで、それと同時に、それが次のレースへのモチベーションにもなります。次戦のイモラではトラブルなく、満足のいく結果が出せるように頑張ります。


ダギーに聞いてみた!
Q:開幕戦ミサノで併催となったFRACA(Formula Regional European Championship by Alpine)。参戦中の日本人ドライバーとの交流は?
A:リー海夏澄選手とはカート時代からの仲で、お互いイギリスへ渡り世界を舞台に競い合ってきた仲間の一人です。同じカートチームに所属していた時期もあり、学校の寮で共同生活を送っていたことも。長い付き合いなので、お互いの事はよく知っているんじゃないかなと思います(笑)。
Q:趣味やマイブームは?
A:もちろん前提としてレースが大好きなので、シミュレーターなどを使って走ることは今でもよくやっています。
イタリアに行く機会が増えた影響で、イタリアンコーヒーにハマってきました。最近では、自宅のコーヒーマシンを使って、どうすればもっと美味しくエスプレッソやカプチーノが淹れられるか、毎日少しずつ調整しながら楽しんでいます。(マシンの調整を繰り返す感覚が、レースカーのセッティングにも少し似ていて面白いです)
あとは、運動全般や料理なども意外と好きで、食生活にもそれなりに気を遣っていると思います(笑)。
最近は車全般にも興味があって、メカニカルな仕組みや構造についても少しずつ学んでいます。
Q:イタリアで好きな食べ物は?
A:生ハムやチーズとパンの盛り合わせ、パスタやピザなら全て、ステーキやチキン料理もシンプルだがとても美味しい、カプレーゼ(特にモッツァレラチーズ)、ティラミス、ピスタチオジェラート、コーヒー、カプチーノ、オリーブオイルの味。
今回はダギー・ボルジャさんにこれまでのキャリアと今シーズンのレースについて振り返っていただきました。第二回もお楽しみに!




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