8月13日、アンドレッティ・フォーミュラEチームは、チームを離脱したノーマン・ナトーの後任として、昨シーズンまでABTクプラに所属していたニコ・ミュラーの起用を発表した。ミュラーはシーズン11をポルシェのカスタマーチームであるアンドレッティから戦った後、ポルシェのワークスチームに移籍する可能性が高いと見られている。また複数年契約であるジェイク・デニスの継続起用も、改めて確認された。

ミュラーはシーズン11にて、シーズン9ワールドチャンピオンであるジェイク・デニスのチームメイトになる事になる。
この移籍は、ミュラーがポルシェのワークスドライバーになるという契約の一環として行われたものと思われており、暫定的なものと言われている。
英国のThe Race紙が報じたように、ニコ・ミュラーはABTクプラ在籍時代の2024年前半からポルシェと交渉していた事が知られており、東京ePrix前の3月には非公式にポルシェのマシン”99X electric”をテストしていた事が知られている。この交渉は纏まり、当初はシーズン11からアントニオ・フェリックス・ダ・コスタの後任としてポルシェワークスチーム(タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチーム)に移籍する方向で話が進められていた。
しかし、契約締結後の5月から6月、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタは5戦中4戦を含む好成績をマーク。当初の、ダ・コスタとの3年契約を早期解消してミュラーを移籍させるという計画が無くなってしまった。そこでミュラーの為に用意された”プランB”が、ポルシェ製パワートレインを使用する、いわゆる”カスタマーチーム”であるアンドレッティへの移籍だ。
前任のノーマン・ナトーがシーズン11でチームメイトのデニスから122ポイント差を付けられた後、シーズン9にアンドレ・ロッテラーをポルシェから起用したのと同じように、再びアンドレッティはドライバー移籍でポルシェと関係を持つ方向性に舵を切った。(このロッテラーの移籍は、新規定Gen3導入に際して、車両理解の側面からフォーミュラE離脱を表明していたロッテラー起用をアンドレッティ側がポルシェに要請したと言われている。)
なおミュラーはWEC(世界耐久選手権)ではプジョーに所属しており、プジョーの親会社であるステランティスグループに所属するDSやマセラティはフォーミュラEに参加している。その事もあり、ミュラーはABTクプラから契約更新オファーの他、マセラティMSGへの移籍といったオファーも受けていた事が知られている。この後者のオファーには、ミュラーがプジョーWECに残留するという契約も含まれていた。
しかしながら、7月にABTはミュラーがチームを離脱する事を発表、同時にマセラティMSGに対してはオファーを受け入れない意向を伝えたと言われている。なおマセラティMSGは来シーズン、ストフェル・バンドーンとジェイク・ヒューズを起用する事を既に発表済みだ。
ミュラーは11月にバレンシアで行われるプレシーズンテストにおいて、アンドレッティから初の公式セッションデビューをする予定だが、8月にはジェイク・デニスと共にポルシェの開発車両を用いた、メーカー主催開発テストに参加する予定だ。
ニコ・ミュラーのコメント
「アンドレッティ・フォーミュラEチームに参加できる事をとても光栄に思います。このチームは、フォーミュラEが始まった時から成功を収めており、特にポルシェとのパートナーシップが始まったシーズン9には大きな成功を収めました。元ワールドチャンピオンのジェイクと一緒に仕事ができるのは光栄ですし、この機会を楽しみにしています。チームの成功に貢献できるよう全力を尽くし、できれば表彰台をいくつか獲得し、フォーミュラEでの初優勝を狙っていきたいと思います。それが目標です。開幕が待ちきれません。」
ロジャー・グリフィス(アンドレッティチーム代表)のコメント
「シーズン11でニコをチームに迎えることが出来て、大変嬉しく思います。彼がこの電気自動車レースへ精通している事は知られており、フォーミュラEのさまざまなコースで好成績を収められることも証明されています。ニコは数多くのモータースポーツシリーズで優勝しており、ブラジルでの開幕戦でジェイクと並んで走るのを楽しみにしています。」
マイケル・アンドレッティ(アンドレッティ・グローバルCEO兼会長)のコメント
「シーズン11には大きな期待を抱いていますし、ニコのような実力のあるドライバーが加わることで、必ず結果が出ると確信しています。フォーミュラEをはじめとする、数多くの著名レースにおける彼の経験と成功は、ドライバー陣の厚みを増していく上で鍵となるでしょう。勝利とワールドチャンピオンへの追求を続ける中で、ニコがどんな活躍を見せてくれるのか楽しみにしています。」
シーズン11はニコ・ミュラーにとって5年目のシーズンとなる。まだ勝利は無く、最高位は2位。これはドラゴン・ペンスキー(現DSペンスキー)に所属していたシーズン7のバレンシアePrixレース1(殆どの車両が電欠したレース)にて達成した記録だ。シーズン10では、ABTクプラのマシンがマヒンドラ製パワートレインのパフォーマンス不足に苦しんだこともあり最高位が4位、総合順位は12位となっている。

ミュラー移籍の経緯
ミュラーの移籍経緯は、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタの存在が大きく関わっている。
一時期、ポルシェに所属するダ・コスタはWEC(世界耐久選手権)とフォーミュラEを両方戦う為にシーズン10限りでポルシェから離脱する予定であった。これはシーズン9終わりにポルシェがダ・コスタに対し、WECとスケジュールが衝突しているフォーミュラEへの完全集中を要望していた経緯からだ。この件があり、Team JOTAからWECに参戦していたダ・コスタはJOTAからの離脱を余儀なくされた。
ミュラーがポルシェとの関係を持った経緯は、ミュラーとポルシェチーム代表のフローリアン・モドリンガーが旧知の仲であるからだ。現ポルシェ代表のモドリンガーはかつて、Team ABTからDTMとフォーミュラEに携わっており、ミュラーがDTMに参戦していた際もモドリンガーがマシンを担当していた。
ミュラーが3月のポルシェ非公式テストに参加したのもモドリンガーの提案であったと言われており、このテストを機にシーズン11からのポルシェワークスチーム加入への交渉が加速した。
ポルシェは当初、3年契約であったダ・コスタと2年で契約解消し、その穴をニコ・ミュラーで埋める予定であった。しかしその後ダ・コスタは5戦中4勝するなど大活躍。ポルシェは計画の再検討を余儀なくされた。その代替案としてミュラーに長期プランを提示。これは契約発効初年度にアンドレッティへ移籍し、その後ポルシェのワークスチームへ移籍するものであった。
なおそのポルシェとアンドレッティはGen3時代の終わりまで、シーズン13までパワートレイン供給契約を結んでいる。
ミュラーとポルシェの契約は少なくとも3年以上と言われており、この長期契約の中でポルシェからWECに出る可能性もあると言われている。
アンドレッティのドライバーという立場もあり、シーズン9にてアンドレ・ロッテラーが行ったようなWECとのダブルプログラムを行う余地があるかもしれないと理解されている。
現在はプジョーからハイパーカーを戦っているミュラーだが、The Race紙によると来シーズンはポルシェのマシンを操っている可能性があると理解されている。チームはポルシェワークスのポルシェ・ペンスキーではなく、カスタマーチームであるプロトン・コンペティションからの出場となる可能性が高い。再来年以降のWECプログラムについては、フォーミュラEとWECのカレンダー次第となるだろう。

ただいずれにせよ、ミュラーにとっては待望のフォーミュラEトップチームのシートとなる。シーズン6、7で所属したドラゴン・ペンスキーのマシンは自社製であった事からパフォーマンスが低く、シーズン9、10で所属したABTもマヒンドラ製パワートレインの制約に苦しめられた。
その中で、ドラゴン・ペンスキーでは表彰台を獲得し、ABTにおいてもチーム復帰後最高位の4位を獲得。シーズン2チャンピオンであるディ・グラッシを圧勝した実力を持つ。
間違いなく、シーズン11のアンドレッティは2人ともチャンピオンシップを狙える実力を持っている。シーズン11のアンドレッティから目が離せない。
【2024年8月14日追記】
ポルシェ、ニコ・ミュラーとのファクトリードライバー契約締結を正式発表

ポルシェはニコ・ミュラーをファクトリー契約ドライバーに迎え入れた事を正式発表。アンドレッティからフォーミュラEに出場する事は公表済みだが、それ以外のシリーズにポルシェモータースポーツを代表して出場するのか、またどのシリーズに出場するのか否かについては後日発表予定としている。
タグ・ホイヤー・ポルシェではなく、アンドレッティから出場する事からWECとのデュアルプログラムを行う余地がある可能性は高く、ポルシェのプレスリリースからもWECにプロトン・コンペティションから出場する可能性は高いと考えられる。インターコンチネンタルGTチャレンジにも、ポルシェを代表して一部ラウンドに出場する可能性があるだろう(なおニュルブルクリンク24時間はフォーミュラEのジャカルタ戦と日程衝突している。)
トーマス・ローデンバッハ(ポルシェモータースポーツ副社長)のコメント
「ニコ、ポルシェファミリーへようこそ!モータースポーツで幅広く、多様な経験を持つもう 1 人のプロフェッショナルを、我々のチームに迎えることができて大変嬉しく思います。ニコは既に、様々な困難なレースでそのスキルを発揮しています。特に彼はニュルブルクリンク24 時間レースで優勝しており、DTMでも2回の準優勝を果たしています。私たちはまず、彼のフォーミュラレースにおける専門知識が、ポルシェのフォーミュラ E プログラムで重要な役割を果たすことを期待しています。ニコがポルシェで他のシリーズにも参戦するかどうか、またどのシリーズに参戦するかについては後日発表します。」
ニコ・ミュラーのコメント
「ポルシェのワークスドライバーになることは、子供の頃から夢でした。初めてポルシェと出会ったとき、ポルシェはとても特別な存在であるとすぐに気付きました。レーシングドライバーにとって、ポルシェは尊敬するブランドです。今、そのポルシェを代表できることは、私にとって大きな名誉ですし、大きな誇りでもあります。」
フォーミュラE シーズン11(2024/2025) 暫定エントリーリスト(◎は正式発表済)
| Team | Driver | |
| ジャガー | ミッチ・エバンス | ニック・キャシディ |
| ポルシェ | アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ | パスカル・ヴェアライン |
| DSペンスキー | マキシミリアン・ギュンター | ジャン=エリック・ベルニュ |
| 日産 | オリバー・ローランド | サッシャ・フェネストラズ |
| アンドレッティ | ジェイク・デニス◎ | ニコ・ミュラー◎ |
| Envision | ロビン・フラインス | セバスチャン・ブエミ |
| マクラーレン | サム・バード | テイラー・バーナード |
| マセラティMSG | ストフェル・バンドーン◎ | ジェイク・ヒューズ◎ |
| ABTローラ | ルーカス・ディ・グラッシ◎ | 未定(ケルビン・ファン・デル・リンデ?、ティム・トラムニッツ?、ダン・ティクタム?) |
| マヒンドラ | ニック・デ・フリース | エドアルド・モルタラ |
| ERT | 未定(ダン・ティクタム?、ユアン・ダルバラ?) | 未定(セルジオ・セッテ・カマラ?、ユアン・ダルバラ?) |



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