実は超複雑!BoPシステムについて知っておくべきこと 【WEC 2025】

WEC/ル・マン24時間

2月28日に開幕したWEC 2025シーズン。3台のフェラーリ 499Pがレースを支配し、1972年にエステルライヒリンクで行われたオーストリア1000km以来、53年ぶりに表彰台を独占した。

そんな今シーズンのWECだが、常にある話題が付きまとっている。バランス オブ パフォーマンス、通称”BoP”だ。

中継で頻出するワードだが、これについて正しく理解している人は多くない。
そこで、今回の記事ではBoPの仕組み、ひいては何のためにあるのかを、HYPERCARクラスに絞って解説していく。

”BoP”とは?

WECのトップカテゴリーには、現在のHYPERCAR規定が導入された2021年からBoP(バランス オブ パフォーマンス) が施行されている。

これは、多種多様なマシンの総合的な性能をパワー・車重などの調整によってある程度均一化し、コース上での争いを盛り上げるためのシステムである。WECに関してのBoPは全てFIA/ACOが管理しているため、チームは介入できない。

【 なぜBoPが必要なのか 】

『そもそも何故BoPが必要なの?調整なんかせずともレースは出来るではないか。』

そう思っているWECファンも少なくない。しかし、HYPERCAR規定の前身であるLMP1が幕を閉じた背景には、開発費の高騰や、参戦費用に対して宣伝効果が薄かったことが主な原因とされている。

一例として、2014年から2017年にLMP1クラスから参戦したポルシェは4年間で600億円以上を費やしたとされている。ざっと計算して年間150億円。この金額は現在のF1に適用されているバジェットキャップ1年分に匹敵する金額だ。

そんな大企業同士での札束の殴り合いが激化した結果、LMP1規定最後のレースとなったバーレーン8hoursでは最高峰カテゴリーに2台のトヨタ TS050以外誰も立ち会えないという、なんとも寂しい幕切れであった。

この惨状を挽回するためにFIA/ACO側がIMSAと協力し生み出したのが、車両に対し性能調整を加えることよって“速さ”の開発競争、並びに参戦コストの高騰を抑制を狙いとしたHYPERCAR規定というわけだ。

BOPテーブルとは?

上記の表がBoPテーブルである。

WECではラウンドごとに必ず発行され、競技者・視聴者問わず誰でも確認可能だ。

この表をサーキットのレイアウトや天気予報、前戦や去年の同サーキットで開催された際のBoPテーブル表と見比べることで「このマシンは今回のレースで強そうだな」といった予想がしやすくなるので、目を通しておくと面白いだろう。

項目は左から”メーカー/マシン”、”最低重量”、

250km/h未満での最高出力”、”250km/h以上での最高出力”、”ドライでのフロントモーター可能速度”※1、

1スティントで使用可能なエネルギー量”、”給油時における意図的に設定されたタイムラグ

となっている。

各項目は大まかに最低重量パワーゲインシステムエネルギー量、に関するパラメーターとして分けられる。次項ではそれぞれを詳細に紐解いていく。

ここが特に複雑!! ”パワーゲインシステム”とは?

現在のHYPERCARクラスでは”パワーゲイン”というシステムが搭載されている。

パワーゲインとは、250km/h未満・以上でパワーの最大出力を2段階に分けて管理するシステムであり、従来の1段階制御システムと比べ、さらなるパフォーマンスの均一化が狙いとされている。

※去年(2024年)のLe Mans24hから運用が開始されたシステムである。

パワーゲインの制御システムはトルクセンサーと異なり、マニュファクチャラー独自に開発が可能なシステムだ。 一般的にはエンジンマップの切り替えによってドライバーが走行中に操作せずとも、自動的に切り替わるシステムだと考えられている。

そして、このシステムの面白い部分がここからだ。

BoPで定められた数値以上の最大出力をトルクセンサーが感知しなければ、どのようなシステムを搭載しても罰せられることはない。 その為、249km/hから250km/hに加速するタイミングで一気にパワーゲイン後に許される最大出力までパワーを上げるマニュファクチャラーもあれば、エンジンマップを3段階以上の段階に分けることで徐々に最大出力を上げていくシステムを搭載しているマニュファクチャラーもあると考えられることだ。 このような、メーカーの思想・開発力の差が出る部分の競争こそ、【BoPがある】=【開発しても意味がない】と思い込まれがちなHYPERCAR規定の中に存在するWECの深い魅力と言える。

スティントごとのエネルギー量

0.001秒で結果が変わるといわれるモータースポーツの世界、当然だが不利になるようなエンジン・機構を搭載するマニュファクチャラーなんて存在しない。

しかしながら、5年目のシーズンを戦うトヨタ GR010が3.5L V6ツインターボ+最大272馬力のハイブリッドシステムという先進的なパワートレインを搭載しているのに対し、2025年デビューの最新マシン、アストンマーティン Valkyrieはコスワース製6.5L V12 自然吸気エンジンをノンハイブリッドで運用するという、にわかには信じがたい構成で初戦を戦った。

なぜ今のHYPERCARクラスには多種多様な形式のパワーユニットを動力源とするマシンが生み出され、このカテゴリーに参戦出来ているのか。

この疑問を解くのは簡単で『HYPERCAR規定においては、どんなパワートレインを搭載しても微々たる差しか生まれないから』である。

なぜなら、パワーを制限すると同時に、1スティント毎に使用できるエネルギー量を車種ごとに制限することで、エンジン形式・HVの有無によって差が生じにくくなるよう、調整されているからだ。

つまりBoPテーブルのエネルギー行にあるマキシマムスティントエネルギーとは、エンジンとハイブリッドを合計した、1スティントに使える総エネルギー量(MJ)表しているということだ。

基本的には70分弱程度になる周回数であったり、上記で述べたパワーの制限を基準に決められているが、細かいプロセスは公開されていない。

そして、BoPで定められた1スティント辺りの総エネルギー量を超えるエネルギー量を消費したときに課されるペナルティが”オーバー ユーズ”である。

中継映像にも出てくる、バーチャル エネルギー タンク(Virtual Energy Tank) は、そのスティントにおいて使えるエネルギー量のパーセンテージということだ。通常の給油の概念とはかなり違うことを意識しておいてほしい。

これがなければ細かい性能調整は不可能!! ”トルクセンサー”

上記の写真中央、ドライブシャフトに噛まされている銀色のリングがトルクセンサーと呼ばれる部品である。走行中はトルクセンサーを介してリアルタイムで駆動力を計測、トルクセンサーから伸びたコードを介してトランスミッション上部に設置された横幅30㎝程度のボックスに移送、データをFIA/ACOにリアルタイムで送信する仕組みだ。

現在のWECではLMGT3を含む全ての車両にこのシステムが搭載されている。

LMH/LMDhで異なるモーターの使い方

同一カテゴリーとして戦っているLMHとLMDhだが、実はこの2つの規定ではハイブリッドシステムの使い方や駆動方式が異なる。

LMDhにはメインとなるエンジンに加え、全車に約68psを発生させるBOSCH製モーターの搭載が義務付けられている。

それに対しLMHはフロント2輪のみにモーターの動力が伝えられる4WDシステムが主流である。

※LMH規定ではハイブリッドシステムの搭載が義務付けられておらず、アストンマーティン Valkyrieのようなノンハイブリッドマシンの参戦も認められている。

このように同クラスでも駆動方式が異なる理由は、WEC側(LMH)とIMSA側(LMDh)でルーツが異なっているからだ。

LMHの前身であるLMP1規定ではエンジンのパワーは後輪へ、モーターのパワーは4輪すべてにパワーを与える駆動方式を採用していた。
それに対しLMDhの前身であるDPi規定ではエンジンのみの後輪駆動で統一されており、HYPERCAR規定への移行が決定される前に計画されていた新規定でも、【マシンの製作費用が安価/ミッドシップ×後輪駆動】の継続をIMSA側は考えていたのだ。 もし4WD化を認めたとしてもハイブリッドシステムの開発を許してしまうと開発費用は跳ね上がってしまい、多くの新規メーカー参入は見込めない。

そこで、FIA/ACOとIMSAは、お互いが持つ2つの規定をHYPERCAR規定という1つの規定にまとめる際に駆動方式・ハイブリッドシステムの統一を行わないことで合意した。
というのがLMH/LMDhでモーターの使い方が異なる主な理由の内の1つだ。

“最低重量”とは?

文字通り最低の重量のこと。
これは乾燥重量ではなく、レース後に車検を行う際と同じように冷却液などが搭載された状況を指す。
エンジニアはレース後のタイヤ摩耗による軽量化や燃料残量など、様々な重量変化を計算したうえで最適な重さのバラストをセッション前に搭載する。

BoPによって定められた最低重量を下回った場合失格となり、
予選後車検で発覚した場合、決勝最後尾グリッドからのスタート
決勝後車検で発覚した場合、チェッカーを受けた順位に関わらずそのラウンドの決勝で得たすべてのポイントが剝奪される

シンプルだけど意外な落とし穴⁉ 最低車重と今年から変わったポイント

WECにおいて重量関係で失格になる原因は主に2種類だ。

1つ目はそもそも決められた重さのバラストを載せていなかった場合。
他シリーズでも頻繁に起こるレース後失格だが、原因の7割以上がこの理由と言っていいだろう。

前提として、HyperCarは軽く作ったからといってアドバンテージが生まれるカテゴリーではない。
HYPERCAR規定の最低重量 1030㎏以上でホモロゲーションを取得した後、FIA/ACOが定めたBoPの最低重量項目に合わせたバラストをチーム側がマシンに搭載する仕組みだ。
しかし、定められた重量を下回らないのであれば、走行中は軽ければ軽いほどいいのである。

そこで、チーム側は必要以上に重くしないよう、BoPで定められた最低重量ギリギリを攻めることがある。 その結果、ほんの少し最低重量を下回ってしまうことがあるのだ。

2つ目は、バラストの重量は満たしていたが、搭載する位置によって前輪軸に掛かる重量がホモロゲーション取得時の登録数値から±0.5%以上変わってしまった場合 だ。

どちらも公式セッション開始前に車検が行われている為、起こることはなかなかないが、頭に入れておいて損はないだろう。

(車検に並ぶWECマシン達とチーム関係者の様子)

ドライバー達にもBoP? 今年から変わったポイント①

WECではこれまで、車両側の重量のみBoPによって定められた重量に合わせる必要があった。

しかし今年から車両とは別に、バラストを利用することで担当ドライバーの平均体重を82㎏に合わせというレギュレーションが追加されることになった。

(例) Aドライバー70.5kg Bドライバー80kg Cドライバー75kgの車両の場合、(70.5+80+75)÷3=75.166…となり、BoP適用後のマシンにプラスで8㎏(小数点以下切り上げ)のバラストが追加される流れだ。

しかし、予選セッションでは担当ドライバーのみ体重で計算される。

つまり、75kgのドライバーが担当する場合は7kg(82-75=7)のバラストを追加するというルールだ。

QualifyingHyperPoleで異なるドライバーが担当する場合、HyperPole開始時までに82㎏-HyperPole担当ドライバーの体重で求めた重量のバラストを搭載しなければならない(小数点以下切り上げ)

また、WECではSUPERGTとは異なり2つの予選セッションを1人のドライバーが担当することが可能なため、バラストの載せ替えや、マシンの感覚を確かめるために貴重なHyperPoleセッションの時間を無駄使いしない為にも、多くのHyperCarチームが同一ドライバーでの2セッション連続アタックを基本としている。

(例)70㎏のドライバーが予選を走る場合、予選のみ12㎏のバラストを載せることになる。

※体重はヘルメット・Hans・レーシングスーツ一式を着用した状態で計測される。

給油システムに小変更!! 今年から変わったポイント②

BOPテーブルとは】で紹介した表の一番右側に記載されているAdd Docking Timeという部分。

これは名前の通り、給油ホースを給油口に接続したタイミング実際に燃料がマシンに補給されるタイミングに意図的なラグを設定することによって、エンジン形式によって生じる燃費・給油時間の差を均すことが狙いだ。 

第2戦Imola6時間レースの時点では、LMH勢はアストンマーティン Valkyrieを除く3車種に+1.2秒。 LMDh勢には全車+1.0秒が設定されており、ここでもLMHとLMDhの差を減らす取り組みがなされている。

まとめ

つまり、BoPとは車体重量パワートレインから生み出される出力1スティントで使用できるエネルギー量という3つのパラメーターからなる膨大な量のデータを元にFIA/ACOが調整を行い、1スティントの長さ・ラップタイム・ピット内での作業時間、の平均化を図るシステムである。

ちなみに、ドライバーを含むチーム関係者がBoPに関して発言した場合罰金のペナルティが課せられてしまう。極端な言い方をしてしまうならば”言論統制”に他ならない処置ではあるが、発言を許してしまうとメーカー同士の口撃大会が始まったり、下手すると撤退するメーカーが出てくることが予想される。そうなると、シリーズの崩壊を招く要因になってしまうため、現状では仕方ない処置と言わざるを得ない。
当たり前だが、ファンによるBoP議論は禁止されていない為、これからもSNS上では大いに盛り上がるトピックとして残り続けることだろう。

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